スコーク・トランスポンダとは [航空雑学]

昨日18時半ごろ、東京・羽田発 大阪・伊丹行き ANA 全日空 NH37便 ボーイング777-200 JA703Aで、与圧システムのトラブルが発生し、スコーク7700(緊急事態発生)を宣言、午後7時前に東京・羽田空港 C滑走路34Rに緊急着陸しました。乗員乗客273人に怪我はありませんでした。

8月12日といえば、1985年に、単独事故としては史上最悪の520名の犠牲者を出した日本航空123便墜落事故が発生した日と同日で、NH37便が飛行していたのも、JL123便が飛行していたのと同じ18時台だったことや、同じ東京・羽田発 大阪・伊丹行きの便であること、スコーク7700を宣言したこと、トラブル発生地点が相模湾上空だったこと、機内減圧による酸素マスクが落下したことなど、JL123便とNH37便の共通点がいくつか見つかり、「偶然の一致?」「関係者の脳裏を過ったはず」「犠牲者の思念かも」「事件性を疑う」「こんな日に勘弁してくれ」などの声がネット上で多数上がっています。国土交通省とANAは、今後当該航空機に不具合が起こっていたのか、重大インシデントに該当するのか、といった原因究明に向けた調査を行うことにしています。

スコーク7700宣言機のFR24での表示(イメージ)


1985年8月12日に発生した日本航空123便墜落事故でも使用された「スコーク7700」は、コックピットボイスレコーダーが公開されたことなどで、日本国内の一般の方にも多く知られていると思いますが、「スコーク」や「7700の意味」などについて、今回は触れていきたいと思います。


その前に、レーダーの基本的な原理を説明すると、レーダーから発せられた電波が航空機にあたり、反射してきた電波で航空機の位置を識別します。ただ、これだけだと詳細情報が知れない他、他の航空機が近くにいる場合は衝突などの危険性があります。そのため、グライダーなどの一部の小型機を除き、ほぼすべての航空機には、「トランスポンダ」(送信機を意味するTRANSmitterと受信機を意味するresPONDERの合成語)とよばれる専用の装置が搭載されており、レーダー信号を受信すると、航空機の情報をレーダー側に送信します。これにより、管制官はレーダー画面上で航空機を識別可能になります。


「スコーク・スクォーク(SQUAWK)」というのは、厳密には航空機を識別する値のことで、航空機1機につき1つ、8進法4桁(0000~7777)の値が管制官によって割り当てられます。航空機には出発空港にて、飛行計画の承認を受ける際、管制官からこの「スコーク」が割り当てられ、パイロットはそれをトランスポンダに打ち込みます。トランスポンダは航空機が出発する際にパイロットによって電源が入れられスコークが打ち込まれますが、トランスポンダの電源が切れていたり、スコークの値が間違っていたりすると、管制塔や航空交通管制部のレーダー画面で正しく識別できず、未確認飛行物体として捉えられた場合、戦闘機がスクランブル発進したり迎撃対象にされたりなどの軍事的・外交的問題に発展することもあります。


トランスポンダには、古いもの・単純なものから順に、スコークのみを送信するモードA、スコーク+高度の情報を送信するモードC、速度や進路などの詳細情報・他機との衝突の可能性なども併せて送信するモードSがあり、順次最新システムであり互換性もあるモードSが導入されています。


スコークには、出発時に管制官から言い渡されるもの以外で、特定の状況下でのみ使用する値も存在します。

①VFR(有視界飛行方式。目視で飛行すること。遊覧飛行の小型機や報道機関のヘリコプターなど)で飛行する場合、空港周辺などの混雑した空域でないなどの条件が揃えば、他の航空機に気を付けながら自由に飛行することができます。逆に言えば、条件さえ揃えば、管制官からの制約やフォローがなくても飛行できるため、管制官が高度などをいちいち識別したりする必要がなく、航空機側も最小限の位置報告程度で済むように、スコークは決められた値(高度10,000ft未満なら1200、高度10,000ft以上なら1400)を使えばよいことになっています。

②無線交信に支障があるような緊急時にも、特定の値を用います。例えばある航空機がハイジャックされた場合、外部との通信を試みようものならハイジャック犯の反感を買い、パイロットの身に危険が及びます。その場合は、ハイジャックされたことを示すスコーク「7500」を、こっそりとトランスポンダに入力します。また、現在の状況を管制官に報告する余裕がないか、口で報告するよりも数値を打ち込んだ方が早いとパイロットが判断した場合、緊急事態発生を示すスコーク「7700」をトランスポンダに入力します。その他に、単純に通信機・無線機が故障してしまい、外部との交信が一切できなくなってしまった場合には、無線機が故障したことを示すスコーク「7600」をトランスポンダに入力します。

これら特定の状況下のみで使用するスコークコードは、全世界共通です。とはいえ日本国内では、スコーク7700のみで見れば、スコーク7700を使用するパイロットやスコーク7700を使用するような事象は、海外の航空会社に比べれば少ないのが現状です。それが果たして、日本国内の航空機が安全な証拠なのか、軽微なトラブルであればわざわざスコーク7700に設定するまでもないと考える風潮があるのかは、一概には言えないので断言はしませんが。(海外では、今回の急減圧などの機体でのトラブルの他、機内で急病人が発生したり、暴れだす乗客がいたりしただけでスコーク7700を使用する例もあります)


普段飛行機に乗っているとなかなか見えてこない、航空機の安全運航の裏側、深部が見えたのではないでしょうか。スコークに関する話は専門的な豆知識として覚えておきつつ、FlightRadar24にはスコーク7600・7700宣言機が発生するとスマートフォンに通知を送るシステムもあるので、通知が来た時には、今回ご紹介した内容を思い出しながら、航空機を追跡してみるのもいいかもしれません。

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